田(デン)

「株式会社 田」は建築の設計・施工を一貫して行う組織を目指し2019年3月に鳥取県倉吉市にてスタートいたしました。
設計・施工を分け隔てることなく一貫して行うことで、打ち合わせ初期段階より関わる職方と技術面においてコミュニケーションを図り、理想的な建築を追及いたします。

これまで大学卒業後、設計事務所及び施工会社にて現場監督の経験を得ました。
ここでは現場監督という仕事を通して建築の現場において特に考えていたことを記述しています。

  

   

責任をとること

建築の現場では非常に多くの人たちが関わり合います。設計の担当者、職方、クライアントであるお客様などです。そのような人たちと話し合いをしながらひとつの建築をつくり上げていきます。住宅の施工であっても半年から一年またはそれ以上の期間をかけて完成まで運んでいきます。

そのような中で何も起こらず完成まで上手く進めば良いですが、ほとんどの場合工程の途中に時間をかけて考えなければならない、というようなことが起こります。お互いの意見を聞いていると「矛盾」が生じてしまう場面で、考えている進め方がこちらの職方には良いが一緒に作業をしているもう一方の職方にとっては不利である、というようなことです。これは本当に一つの現場で工事を進めている中で何度も起こります。

そのようなときに、中立の立場で相反する意見をまとめ、工事の進め方を決定するのが現場監督の役割です。クライアントや設計担当者の意見をくみとり、現場で職方と話し合いながらその時の最善の方法を模索します。決定に対して自ら責任をとりながら後戻りがなく工程がスムーズに進む方法を判断していきます。数年、数十年先を予想してその建築ができるだけ長く存続できるようにと考えていきます。監督であれば自らの担当現場でうまくいった部分と反対に悩みながら進めた部分というのがあるもので自分ではっきりと覚えています。

さまざまな意見や情報を一度自分自身の中に吸収し「判断」すること、その上で自ら「責任」をとる、ということが非常に大切だと考えています。

個の力を120%発揮する

人は「環境」によって持っている能力を発揮できるかそうでないかが大きく変わるということを実感しました。同じ建築をつくるにしても関わる人たちの「想い」によって完成する仕上がりはまったく異なるものになります。 

お互いの立場を尊重して、妥協することなく良い雰囲気で進めた仕事というのは完成した後に振り返ってみても良い仕上がりに感じられます。  

反対にコミュニケーションがうまくとれず喧嘩のような状態になりながら進めてしまった仕事というのは完成してから振り返ってみてもどこか違和感があり、仕上がりも良いものに思えない、ということがあります。

人によってもっている「能力」は当然のようにそれぞれ異なります。能力を発揮するには、まずは相手を信頼し、時間をかけて関係を築いていくことが大切だと考えています。個のもっている能力以上の力を発揮できたとき建築は想像を超えて素晴らしいものとなります。

周囲への影響

ひとつの建築がつくられるときその建築が周囲におよぼす影響について考えています。

通常、建築は限られた工期と予算のなかでつくられています。この限られた条件の中で十分に話し合いを繰り返し、検討を重ね、その建築のことを考え続けていきます。“優れた“建築の条件の一つとしてその建築が隅々に至るまで検討がなされている、ということがあると思います。これは言い方を変えると、検討されていない部分がないということです。建築の完成までの過程における多くの時間はこの検討に費やされています。工程の中ではこれまで試したことのない新たな技法などについて挑戦を試みながら毎回の建築において試行錯誤を繰り返していきます。このようにして理想の建築の「在り方」を探求しています。

ひとつの建築が完成に到達した時、その建築は独特の雰囲気のようなものを纏(まと)い、その建築をとりまく周囲にも影響をおよぼすものだと考えています。

抽象から具体的なかたちへ

ものづくりのおもしろさは、言葉にすると曖昧なものを具体的なかたちとして表現できることにあります。思い浮かべたイメージを言葉や図として表し、関わる人たちと共有しながらひとつのものをつくり上げていきます。

建築の場合、最初に完成後にこうなってほしいというおぼろげな雰囲気を想像してから工事に着手します。工事が始まった後も最初に思い描いたイメージを持ちながら一定の期間をかけて順番に工程を進めていきます。途中完成していく姿を見ながらその都度判断し、次の作業内容を図面として表現したり言葉にして、共有することにより工程が進みます。最初に思い描いていたこうなって欲しいという抽象的なイメージと完成に向かう中で徐々に現れる目の前の成果といった具体的なものとの反復を繰り返すことにより最終的なかたちとしての建築ができあがっていきます。

同じ建築であっても関わる人たちの考えていることや経験、技量などが建築に投影され「個性」のようなものとなり、完成した建築は全く異なる雰囲気を持ちます。抽象と具体的なかたちとの反復を繰り返すことで完成に向かっていきますが、それぞれの人たちが最初に思い描くこうなって欲しいという「想い」は特に大切にしています。

“地方都市において建築を”

生まれ育った環境により持ちはじめた「住宅」への興味が徐々に実際に造っていく「建築」へと移行していったように思います。大学卒業後、2年間地元の設計事務所にて建築設計に従事、その後、東京で建築施工会社にて5年間現場監督として主に住宅建築の現場に携わりました。

故郷付近である鳥取県倉吉市を拠点とし、山陰の特有の風土の中でこの地に有する職方の技術や素材を十分に活かし、設計から完成までの過程の中で丁寧に対話を重ねることにより関わる「人」と向き合い、山陰の地方都市において「建築」を生み出します。

「建築という仕事を通し、人と社会を育てる」
ことを理念としています。