杉板型枠コンクリート

コンクリートを打設する前の型枠に杉板を貼ることにより表面に杉板の模様をもったコンクリートをつくることができます。使用する材料や施工の方法で仕上がりの表情が異なります。
ここでは施工の際に意識していることを紹介します。

目次:
1.施工
2.うづくり加工
3.剥離剤(はくりざい)
4.養生
5.水まき
6.コンクリート打設
7.仕上がりの色

 

1.施工

打ち放しコンクリートで使用する型枠の上に杉板を貼り、コンクリートを打設することにより、杉板型枠コンクリートを造ることができます。使用する杉板を縦使いとする場合は、工場で型枠に杉板を貼ったパネルを現場に持ち込むことができますが、横使いとする場合には現場で杉板を貼ります。
下記写真は縦使いであるので、工場で杉板を貼ったパネルを現場に持ち込み、建込みが完了している状態です。

外壁の杉板型枠を建て終えた状況。

2.うづくり加工

 コンクリートを打設したときに使用する杉板の木目の凹凸がコンクリートの表面に映し出されることにより模様となって現れます。この凹凸の深さを調整することを「うづくり加工」と呼びます。実際には杉板の表面にブラシをかけることにより凹凸の深さが調整されます。ブラシを多くかけることにより木目の柔らかい部分が削り取られ、硬い部分との差が大きくなることにより凹凸が深くなります。凹凸が深くなるとコンクリートが仕上がった時の陰影がはっきりと出るようになります。

うづくり加工により木目の凹凸の深さを調整します。

現場で使用する時は、杉板型枠のモックアップを作製し、実際にコンクリートを打設し、うづくりの深さを決定します。

太陽光では分かりにくいのですが、夜に電気などの照明により水平方向に近い角度から照らされた時にこの「陰影」がはっきりと表れます。ほんの少しの凹凸でも影が生まれ、杉板を製材する際に使用していたプレーナー(表面を綺麗にするための電動の機械)の跡でさえも照明の角度によりはっきりと現れます。

建物を全体として俯瞰したときの表情はこの陰影により大きく異なります。これまでの現場では陰影が少ないものを多く使用しています。うづくりの深さが浅くてもコンクリート表面には板の柄となって表れるためです。夏場など現場に材料の杉板を長期間置く場合は板の乾燥により陰影の深さ深くなることもあるので注意するようにしています。休日をはさむ場合はシートなどで囲い直射日光を防ぎます。

3.剥離剤(はくりざい)

杉板をパネコートに貼り終わった後に杉板の表面に塗る材料です。コンクリートの打設が完了し、型枠を解体する際にコンクリート表面と型枠がはがれやすくするために塗布します。この剥離剤は水性のものと油性のものがありますが、現在は油性のものを使用するようにしています。油性の方ができあがりが上手くいく場合が多いからです。油性の場合、杉板に塗布し、太陽光が当たった際に杉板が「日焼け」してしまう場合があるので工夫する必要があります。シートなどで覆うことにより、直射日光が当たらないようにしています。この剥離剤は少なすぎるとすぐに乾いてしまうので夏場などは2回塗布するようにしています。

剥離剤の塗布状況(写真左下)

4.養生

 コンクリートを打設してから4〜6日後に型枠を解体します。
この時にコンクリート打設前の杉板が乾燥しているとコンクリート表面と型枠が付着して一緒に剥がれてしまうことがあります。これを防ぐために型枠の養生を行います。現場では型枠を建て終わった後にシートで覆い、型枠に直射日光が当たるのを防いでいます。日中は配筋、電気、設備の配管などの作業していることが多いので作業が終わった夕方頃にシートで覆うことが多いです。

型枠をシートで覆い直射日光を防ぎます。

5.水まき  

コンクリートの打設の日の3、4日前からは杉板型枠に水まきをするようにします。杉板を湿潤状態にして乾燥を防ぐためです。打設の3、4日前であれば型枠は両面がふさがって天井のスラブ(床)が貼られている状態なので実際は上側から壁の間にホースで水をまくことになります。現場が水浸しになるので日中の作業が終わる夕方から行うことが多いです。夏場の乾燥しやすい時期は多めに水をまきます。

壁と床の間から水をまきます(写真中央)

6.コンクリート打設

コンクリート打設当日は杉板型枠部においても普通打ち放しコンクリートと同じように打設を行います。コンクリートを流し込むとともに壁の両側から「叩き棒」と呼ばれる木でできた金槌のようなものでコンクリートの入った型枠を叩いていきます。叩いた振動によりコンクリート中の空気を抜くようにします。

杉板型枠の場合、普通の打ち放しコンクリートで使用するパネコートの上に杉板が貼ってあるので、普通の打ち放しと同じ強さで叩いては中のコンクリートまで振動が伝わらないと感じています。コンクリート打設日の朝礼で杉板部分を周知し、杉板部分は少し強めに叩くようにします。その方が綺麗に打ち上がるように思います。また、打設の際にコンクリートが入っていない部分を叩いてしまう「空叩き」をするとパネコートから杉板が剥がれてしまうことがあるので注意が必要です。

コンクリート打設状況。

7.仕上がりの色

コンクリート表面の仕上がりの色については研究中です。赤色の強い杉板を使用すると仕上がりが「濃く」なり、黒みを帯びてくると感じています。実際に「節」の部分は濃い表情となって仕上がる場合が多いです。白色の強い杉板を使用するとグレーに近い表情となります。普通打ち放しコンクリートであってもスランプ(コンクリートの柔らかさを表す数値)が小さく、水分が少なく密実なものになればなるほど仕上がりの色が黒色に近くなります。コンクリートを打設する季節や気温、コンクリートの強度、空気量などの配合によっても仕上がりの色は変わります。

型枠解体状況。
杉板の状態により仕上がりのコンクリートの色が異なります。

(2020年5月5日記/山田)